今回は、糖尿病薬の副作用のお話。
糖尿病薬で新しいタイプの薬剤、
「SGLT2阻害薬」。
このお薬の特徴は
「やせる」
副作用があるという事です。
肥満が合併している糖尿病の症例では
大変有用な薬剤です。
さらに癌が合併している場合にも
有用です。
このため
ビタミン・ケトン療法の症例でも
しばしば使用しています。
(なお、SGLT2阻害薬に関して
ダイエット目的のみでの
安易な内服は全くお勧め致しません)
やせる理由は
この薬の作用にあります。
SGLT2阻害薬の
「SGLT2」
は、
sodium glucose cotransporter 2
の略で、
日本語では、
「ナトリウム・グルコース共役輸送体 2」
といいます。
つまり塩分とブドウ糖を
細胞の中に引き込む役割をもつ
ポンプのようなものです。
細胞の膜にあり
この輸送体を通じて
細胞の中に塩分とブドウ糖を引き込みます。
(生化学的に細かく言えば、
ナトリウムの作るNa+の電気的・科学的勾配によって
供給されるエネルギーを用いた二次性能動輸送タンパクです。)
この輸送体、SGLT2があるのが
尿細管という尿を作る腎臓の一部である事が
知られています。
ヒトは元々、尿を作る途中で
一旦、ブドウ糖を「尿の元(原尿)」に出す事が知られています。
その一旦、原尿に出た糖を再吸収しているのが
SGLT1とSGLT2です。
SGLT1と2で、原尿に出たブドウ糖を
100%回収するとされています。
で、SGLT2阻害薬は
その原尿に出たブドウ糖の回収を
ブロックする薬です。
このため、尿にそのままブドウ糖が出る事になり
血糖値が下がります。
また、ブドウ糖というエネルギーを
体外へ出すので「体重が減る」、
つまりやせる、という事になります。
ちなみに、SGLT1は、腎臓(近位尿細管)以外にも
腸管、心臓などにも存在しているため
ブロックし過ぎた場合にこれらの場所に
副作用が起こりうる、という事で
SGLT1のみをブロックする保険適応のある薬剤は
存在していません。
唯一、「カナグル」というSLGT2阻害薬が
SGLT1も比較的ブロックする事が知られています。
そのSGLT1をブロックする性質によって
腸管からのブドウ糖の吸収を
ある程度、ブロックするため
体重リバウンドのないSGLT2阻害薬
という特徴を持ちます。
(他のSGLT2阻害薬は数kgやせた後、半年で1〜2kgリバウンドします)
さて、今回の話は、その
SGLT2阻害薬で
アシドーシス
が起こるというお話。
ここまでSGLT2阻害薬の作用を聞いて、
まったくアシドーシスと結びつかない事に
気が付かれた事かと思います。
このSGLT2阻害薬という薬の説明を聞く
時も今のような説明を効きます。
これだけでは何故、アシドーシスになるか
さっぱり分かりません。
このアシドーシスの理由が推測される性質が
世界的に有名な科学雑誌、「ネイチャー」に掲載されました。
Inhibition of the glucose transporter SGLT2 with dapagliflozin in pancreatic alpha cells triggers glucagon secretion
Nature Medicine volume 21, pages 512–517(2015)
これは腎臓にあるSGLT2が、
何と
膵臓のα細胞にも存在している
という事が分かり、
しかもそのα細胞から
血糖値を上げるホルモンの1つ
「グルカゴン」
を分泌させてしまう事が
分かった、というのです。
え、血糖値を下げるハズの薬が
血糖値を上げるホルモンを出してしまうの!?
という事で、大変衝撃的な論文です。
もちろん、SGLT2阻害薬は
トータルとしては血糖値を下げます。
しかし、一方でこのような働きをしている薬剤でもあります。
腎臓のSGLT2のみブロック
できれば、このような事は起きませんが
そういった薬剤はまだありません。
薬の作用が大雑把すぎるために
起きている副作用、と言えます。
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そして、このグルカゴンは
血糖値を上げるだけではなく
遊離脂肪酸やケトン体を増やす働きがあります。
一方で、糖尿病の人の中には
インスリン分泌が少なかったり
抗インスリン抗体などによってインスリンが作用しない人
内臓脂肪が多くインスリンが効きづらい人
などがいます。
つまり、インスリンがあまり作用していない人がいます。
それらの
「インスリンがあまり作用していない人」
が、
このSGLT2阻害薬を飲むとどうなるか?
通常はケトン体は有用で安全、
というのはこのブログを読んでいる皆さんなら
既にご存知かと思います。
しかし、
ケトン体が安全なのは
・インスリンが最低限作用しており
・グルカゴンの暴走がない
という場合です。
インスリンの作用も不足しており、
グルカゴンも分泌過剰な場合はどうなるでしょうか?
それがまさにこの
SGLT2阻害薬を
インスリン作用が不足している人が
飲んだ場合に起きます。
そう、
代謝が崩れます。
ケトン体で言えば、
普段はインスリンによって増えすぎないように
コントロールされていますが
このような
インスリン作用不足
グルカゴン過剰
の状態では
ブレーキが壊れたように
急激に
量も激増
します。
スピードが速く増え、
しかもその量に歯止めがきかずに
どんどん増えていく、という事です。
こうなると、
ケトン体が良い悪い、ではなく
体の代謝が
この変化に追いつかなく
なります。
ケトン体は酸性ですので、
この急激かつ量の歯止めの効かない増加によって
体全体も一気に酸性となってしまいます。
大切なのもう一度言えば、
ケトン体が悪いのではなく
変化のスピードが
速すぎて、際限がない
事が問題、という事です。
通常の制御下では
ケトン体は大変有用です。
以上より、
インスリン作用不足の強い人の場合は
SGLT2阻害薬を飲むと
アシドーシスを起こすリスクが高い
という事が分かったかと思います。
そのような場合でも
SGLT2阻害薬を使いたい、という時には
インスリン作用を増やす
または
グルカゴンを抑える
事が必要になる、という事も
分かるかと思います。
なお、
グルカゴンを抑える薬剤には
DPP4阻害薬(内服薬)
と
GLP1製剤(注射薬)
があります。
この2種類の薬剤は
間接的にインスリンを増やす事で
血糖値を下げる薬剤です。
つまり、
通常のインスリン分泌がある人に
これらの薬剤を使った場合には
高インスリン状態
となってしまい、
インスリンの影響を受けてしまいます。
インスリンの3大慢性リスク
をご参照ください。
このため、
インスリン分泌があまりない場合に
アシドーシス予防のため
DPP4阻害薬やGLP1製剤を使うのは有効、
という事になります。
高インスリン状態で、
インスリン作用のしっかりある人に
DPP4阻害薬やGLP1製剤を
使うべきではありません。
高インスリン状態でも
抗インスリン抗体がかなり多い、
もしくは
妊娠糖尿病
の場合は、
どちらもインスリンが作用しない状態ですので
DPP4阻害薬やGLP1製剤は有効です。
以上、SGLT2阻害薬によるアシドーシスの話、でした。