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糖質オフ初期の体重減少は、なぜ起きるか?

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今回は、公開記事にする際に、かなり手を加えて読みやすくしています。

 

糖質オフ初期の体重減少は、なぜ起きるか?

 

糖質オフ初期の体重減少について、解説です。あちこちで何度も書いてる内容ですが、世に出す度に「初めて知りました!」ってなるので、改めて。また、今回、記事にしたのはネットで「間違っていたり不足している記述」を割と当たり前に見かけたため、というのもあります。ネットの情報は玉石混交で、石だらけなので、間違っている内容が普通に載りまくっています

 

この記事では、「主な4つ」について説明します。以下の4つです。

誤1 「グリコーゲンが分解されて水が出る」(内容不足)

誤2 「体重が落ちても体脂肪は落ちていない」

誤3 「脳がグリコーゲンを分解」(内容不足)

誤4 「糖質オフを続けると筋肉が分解されて危険」

 

 

 

誤1 「グリコーゲンが分解されて水が出る」(内容不足)

 

これ自体は正解です。しかし、この内容だけでは不足しています。

まずは、この「グリコーゲンが分解されて水が出る」について説明します。

 

グリコーゲンが分解されて水が出る

「グリコーゲン」は、細胞の中に糖を蓄えるためのカタチにしたものです。植物の糖貯蔵物はデンプンですが、その動物版が「グリコーゲン」です。別名「動物デンプン」とも言われます。

ブドウ糖はそのままでは、周りのものにめっちゃカラミまくっていきます(反応性が高い)。そして、くっついて離れなくなる(=糖化)と、その相手(タンパク質など)の構造を変えてしまいます。構造が変わってしまうと、本来の機能が果たせなくなってしまいます。最近、話題になる「AGE(終末糖化産物)」も、この糖化の結果、出来てしまうものです。

ですので、そのままでは糖を細胞内に蓄えておけません。反応性を低くして、周りのものに影響を与えないようにしたのが「グリコーゲン」です。ブドウ糖が枝分かれしながら、ズラーッとつらなったようなカタチをしています。この「グリコーゲン」というカタチなら、細胞の中に比較的安全に蓄えておけます。主に肝臓や筋肉に、このグリコーゲンは存在しています。他の細胞の中には、あまりグリコーゲンはありません。

具体的には、グリコーゲンは肝臓に100g、筋肉に300g、蓄えられています。

グリコーゲン 1g に対して、水 3〜4g がくっついています。

つまり、一般的な成人では、グリコーゲンは体内に 400g程度あり、それにくっついている水は 1200 〜 1600g 程度ある、という事です。合計、 1600 〜 2000 g、となります。

糖質オフ初期には、この水が出ていくので、1 〜 2 kg痩せる、という事です。
ただし、後に書きますが、「糖質オフ初期の体重減少」は、これだけが要因ではありません。

 

なんで水がくっついているの?

グリコーゲンだけに、ではなく、体内の色々な物質に水分子がくっついています。こういった、体内の物質にくっついている水を「結合水(けつごうすい)」と呼びます。

体内の水は、グリコーゲン以外にもアミノ酸などにくっついています。全部まとめて「結合水」と呼びます。

なぜ、水の分子がくっついているのでしょうか?

水の分子は、H2Oです。水素原子2つ、酸素原子1つです。H-O-Hという順に並んでいて、くの字型に曲がっています。その中央の酸素原子の部分が、電子をより強く引っ張るため、中央の酸素原子のあたりがマイナスの電荷になっています。逆に、両端の水素原子の辺りはプラスの電荷になっています。

一方で、グリコーゲンは枝分かれしまくって繋がりまくったブドウ糖のようなカタチをしています。その端っこの部分(OH基=ヒドロキシ基)には、やはり酸素原子部分がマイナス、水素原子部分がプラスの電荷になっています。グリコーゲンが枝分かれしまくっている分だけ、その端っこがプラスやマイナスの電荷になっています。いっぱい枝分かれしているため、いっぱい電荷が偏っている端っこ部分がありますそこに、水の分子がくっつきます

 

(参考)グリコーゲンの分子構造

 

まとめ:グリコーゲンの端っこ部分に水分子がくっつく

 

なお、結合水の逆は「自由水(じゆうすい)」です。特に他のものとくっついていない水が、自由水です。

 

グリコーゲンが分解されると水も出ていく

このグリコーゲンにくっついている分の「結合水」は、グリコーゲンの分解にともなって、この水も体外に排出されます

珍しく参考論文を書いておきます。

「The amount of glycogen stored was calculated to be at least 500 g, which means that 3 – 4 g of water is bound with each gram of glycogen.」

(適当訳:貯蔵されているグリコーゲンは、最小でも 500g と計算される。これは、グリコーゲン 1g に、水 3〜4g が結合している事を意味する。)

 

英語で調べても「結合水が出ていくので痩せる」しか載ってない

なお、英語サイトで「糖質オフ初期の体重減少」を調べても、大体はこの「結合水が出ていくので痩せる」としか書いてありません

例えば、こんな感じです。

「Each gram of glycogen is associated with 3-4 grams of water
So, as your body burns its way through the reduced dietary carbs and into the glycogen stores, the water attached to the glycogen is lost as well resulting in the phenomenon commonly known as “losing water weight.” 」

(適当訳:グリコーゲン 1g につき、 3〜4g の水と結びついている。

このため、糖質オフしてグリコーゲンの貯蔵を使うと、グリコーゲンの結合水は無くなる。これは「水の重さの分の減少」として知られている。)

 

でもって、こう続くので、やっぱり英語サイトでも余裕で間違っています

「There’s no fat loss here yet — it’s like the glycogen and accompanying water are squeezed out of your muscles and liver.」

(適当訳:この状態では、また体脂肪は減っていない。グリコーゲンの結合水が、筋肉や肝臓から絞り出されたようなものである。)

 

後に説明しますが、体脂肪も減る事象が””同時に””起きています。そう、同時に、なんです。「英語だから正しい!」という思い込みも、ついでに捨てておきましょう

 

水が出ていく要因

グリコーゲンが分解されると、その分の結合水は、自由水になります。そうして体外に排出する流れになります。しかし、水は「再吸収」されます。水は人体にとって大切なので、そのままは出ていきません。「再吸収」されます。

グリコーゲンが分解されてその結合水が自由水になっても、再吸収されまくっている状況では、体外に出ていきません。再吸収も同時に減っているため、糖質オフ初期には、水が体外に出ていきます

糖質オフ初期では、水の「再吸収」も同時に減っている!

 

人体は重要なものは「再吸収」するシステムがあります。水も生存に重要なので、「再吸収」されます。

腎臓の「糸球体」というフィルターで血液がフィルターされて「原尿(げんにょう)」が出来ます。その「原尿」には、水だけでなくブドウ糖、アミノ酸、ミネラルなどの身体に重要な栄養も含まれています。

これらの栄養は、フィルターを素通りしてしまうからです。それを、後から「再吸収」によって回収します。水も同時に「再吸収」で回収されます。

尿の元になる「原尿」は、成人で約 150 〜 180 L/日 にもなります。尿として体外に排出されるのは、原尿のわずか 1% に過ぎません。水は、激しく再吸収されています。

それに大きく影響するのが「インスリン」です。インスリンは尿を作る途中で、「水」と「ナトリウム」を再吸収させる作用があります

インスリンは水をめっちゃ再吸収させる!

 

「1日3食、主食をしっかり食べています!」といった、糖質まみれ状態だと、インスリンは食後にドバドバ出ています。こういった状態だと、インスリンの作用で、体内から「水」と「ナトリウム」が出て行きづらくなります。再吸収されまくりです

インスリン過剰だと、「水」と「ナトリウム」が、体内に溜まる、という事です。

 

糖質オフで血圧も下がる?

糖質オフによって、インスリンが減るため、今まで過剰に体内に溜まっていた「水」と「ナトリウム」が尿として体外に出ていきます。糖質オフ初期の体重減少によって、高血圧の人の血圧がグッと下がる事があるのは、このためです。

単にグリコーゲンの結合水だった水が出ていくだけでなく、ナトリウムも同時に出ていくため、高血圧が改善します。減塩してなくても、体内から余分な塩(ナトリウム)が出ていくので、血圧が下がります。

実際に、糖質オフをしっかりして、降圧剤が減らせたり、全く不要になった人は何例も診ています。高血圧にも糖質オフっ!!

 

さて、のこり3つの項目も説明していきましょう。と、言いつつ、まず一旦、糖質オフ初期の体重減少の要因について、まとめておきます。

 

 

 

まとめ:糖質オフ初期の体重減少、3つの要因

 

糖質オフ初期の体重減少は、下記の3つが要因です。

 

(1)グリコーゲンの結合水が、グリコーゲン分解によって自由水になり、尿に出ていく。

(2)インスリン減少で、インスリンによる水と塩分の再吸収が減って、水と塩分が尿に出て行きます。

(3)糖代謝から脂質代謝に切り替わる時に、ロスが出ます(ケトン体がアセトンになって体外に出る) 。

 

(1)と(2)は、ここまでで説明してきた通りです。

なお、この(3)の代謝切り替え時の「ロス」は、トラックがギアチェンジした時に不完全燃焼が起きて排気ガスがめっちゃ出るのと同じです。脂質が不完全燃焼して、余ったケトン体の処理が間に合わず、アセトンとして体外に出ていってしまいます

代謝が切り替わると、ケトン体を素早く処理して、安定した形(β-ヒドロキシ酪酸)に出来るようになります。そうすると、アセトンになって体外に出ていきまくる事がなくなります。

アセトンもケトン体ですが、めっちゃ揮発性が高く、飛んでいってしまうのでエネルギーとしては使えません。アセトンは、尿だけでなく、汗、唾液、涙、などから、勝手にどんどん出ていきます。

この飛んでいくアセトンが、糖質オフ初期の「ケトン臭」となります。代謝が脂質代謝に切り替わり終わると、アセトンは減るので、ケトン臭も無くなります。

 

 

 

誤2「体重が落ちても体脂肪は落ちていない」

 

誤2「体重が落ちても体脂肪は落ちていない」

糖質オフ初期の体重減少の時には、脂質の代謝産物の「ケトン体(のアセトン)」が体外に出るので、体脂肪も落ちます

 

 

 

誤3 「脳がグリコーゲンを分解」(内容不足)

 

誤3 「脳がグリコーゲンを分解」(内容不足)

これだけだと、言葉足らず、です。基本的にグリコーゲンを分解して使うのは、肝臓と筋肉です

きっと「脳は大量のブドウ糖を使うのでグリコーゲンが分解されて使われる」みたいな事を言いたかったのでしょう。しかし、省略し過ぎています

 

実は、脳の「アストロサイト」という細胞にもグリコーゲンは蓄えられています。アストロサイトは、脳にあって、構造を保ったり、色々なものを輸送して脳に必要な条件を整えたりしている細胞です。

 

脳にもグリコーゲンが蓄えられています。そして、そのグリコーゲンを使います。なので、「脳がグリコーゲンを分解」する、という事自体は、間違ってはいません

「貯蔵糖質であるグリコーゲンは筋などの末梢組織だけでなく,脳のアストロサイトにも貯蔵され,ニューロンのエネルギー需要増大時の重要なエネルギー源となる.」

 

ただし、その量は筋肉や肝臓のように多くありません。つまり、空腹時に脳が使うブドウ糖の大部分は、脳グリコーゲン「以外」から供給されるブドウ糖です。

 

つまり、空腹時に脳が使うブドウ糖は、主に、この2つです。

・肝臓内のグリコーゲンを分解して、血中に放出したブドウ糖

・肝臓が糖新生で作り出して、血中に放出したブドウ糖

 

この2つが、空腹時に脳が使うブドウ糖の、主な供給源です。

なお、前記のように筋肉の方が多くグリコーゲンが蓄えられています。(筋肉300g、肝臓100g)しかし、筋肉細胞の中のグリコーゲンは、その筋肉細胞でしか使えません。筋グリコーゲンは、筋肉「専用」グリコーゲンです

一方で、肝臓のグリコーゲンは、分解後に血液中に出され、他の臓器でも使えます。その肝臓のグリコーゲンも、そのまま血液中に出される訳ではなく、肝臓でグリコーゲンをブドウ糖に変換してから、血液中に出します。

 

 

誤4「糖質オフを続けると筋肉が分解されて危険」

 

これは、よくある「大間違い」です。「糖質オフを続けると」ではなく、「タンパク質不足や脂質不足が続くと」です

タンパク質不足や脂質不足が続くと筋肉が分解される

 

タンパク質を充分に摂っていれば、その摂ったタンパク質を材料にして糖新生が起きます。このため、筋肉が分解される事はありません

 

食前や食間の場合には、タンパク質を摂っていない状態です。この時には、脂質を充分に摂っていれば、その摂った脂質がエネルギー源となります。もしくは、体脂肪がタンマリあれば、その体脂肪が分解されてエネルギー源となります筋肉は分解されません

「糖質オフ」と「カロリー制限」が、ごっちゃになって、糖質・タンパク質・脂質制限になってしまうと、筋肉も分解される事になります。それは、「糖質オフ」が原因ではなく、単なる「タンパク質不足や脂質不足」に過ぎません。

タンパク質や脂質の摂取は、非常に大切です

 

ミニコラム:タンパク質だけで生きていけるか?

結論から言えば、タンパク質のみだけでは、いずれ死にます。人間は、糖質ゼロ、脂質ゼロ、タンパク質のみ、だけでは命を保てません。

「え?タンパク質だけ摂ればいいんでしょ?体脂肪があるじゃん」などと、思うかもしれません。

確かに、タンパク質を大量に摂ると、糖新生が起き、ブドウ糖に変換され、さらに体脂肪になります。だから、タンパク質だけタップリと摂っていれば、脂質も作れるので、生きていける気がするかもしれません。

しかし、脂質には「必須脂肪酸」というものがあります。この「必須脂肪酸」は、生きるために必要なのに、他の栄養から作り出せない脂質です。つまり、この「必須脂肪酸」だけは、食べ物など体外から摂取しないと、死にます。

タンパク質を大量に摂り続けても、この「必須脂肪酸」が欠乏するため、命を落とします。タンパク質と脂質、どちらも大切です

 

タンパク質を摂る時には脂質も同時に摂る

なお、タンパク質だけでも、インスリンが分泌されます。しかし、そこに「脂質」も同時に摂ると、インスリンの分泌量が減る事が知られています。このため、タンパク質を摂る時には、ある程度の脂質も同時に摂るようにしましょう。

とはいえ、「大量のタンパク質」と「大量の脂質」を同時に摂れば、痩せなかったり太ったりします。「大量のタンパク質」を摂る時には、脂質は少量〜中等量にしましょう。

と書くと、「それ、どの位?」という疑問が浮かぶ事でしょう。厳密にどの位の脂質が適しているか?は、各人によって異なります。代謝も違いますし、栄養状態も違いますし、同じ人でも運動した後と安静時では話が違ってきます。

タンパク質摂取時に摂るべき脂質について、「この量!」という固定した量はありません。人によって違い、さらに同じ人でも状態によって違います。

 

 

 

おまけ

 

この記事を書いている時に、まだ「ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源!」という大間違いの記載をしているサイトを見かけました・・・。

まだそんな誤解を・・・。

脳は、脂質の代謝産物である「ケトン体」も使えます。一応、この企業サイトには「ケトン体も使えます」という内容を、「お問い合わせ」から送っておきました(笑)

脳はブドウ糖だけでなく、ケトン体も使える!

 

以上、糖質オフ初期の体重減少について、でした。

 

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ABOUT ME
医師水野
内科医。2003年に医師免許取得(医籍登録)。 両親とも糖尿病家系。2度肥満だった自らの体の劇的な変化をきっかけに、糖質制限を中心とした治療を開始。 その後、糖質オフやビタミン・ミネラルなどの情報をブログ、Facebook、YouTubeなどで発信。 監修本「糖質オフ大全科 (主婦の友社)」が中国でミリオンセラーに。 著書は「糖尿病の真実~なぜ患者は増え続けるのか~ (光文社新書)」「1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法(エクスナレッジ)」「薬に頼らず血糖値を下げる方法(アチーブメント出版)」、など。