今回は鉄不足で糖質依存?について。
鉄不足などについてはコチラを。
エネルギーになる栄養素は3つ
人間にとってエネルギーにできる栄養素は3つです。
よく3大栄養素と言われる、「タンパク質」、「脂質」、「糖質」です。
では、この3つはどのようにエネルギーになるのでしょうか?
「タンパク質」は一旦、ブドウ糖にしてから、エネルギーになります(糖原性アミノ酸の場合)
タンパク質 → ブドウ糖 → TCA回路 → 電子伝達系 → エネルギー(ATP)
タンパク質が分解されてできる「ケト原性アミノ酸」の場合はケトン体に変換され、エネルギーになります。
糖質はタンパク質の続きと同じです。
糖質 → TCA回路 → 電子伝達系 → エネルギー(ATP)
脂質はこう代謝されます。
脂質 → TCA回路 → 電子伝達系 → エネルギー(ATP)
という事で、ザックリまとめるとこうなります。
3大栄養素 → TCA回路 → 電子伝達系 → エネルギー(ATP)
そう、「TCA回路」と「電子伝達系」という代謝経路を通ってエネルギーになります。
この「TCA回路」と「電子伝達系」は、3大栄養素共通の代謝経路です。
「TCA回路」と「電子伝達系」は、3大栄養素共通の代謝経路。
「TCA回路」と「電子伝達系」が存在するのは、人体の各細胞の中にある「ミトコンドリア」というものの中です。
ミトコンドリアはいわば、細胞内の「発電所」のようなものです。
ミトコンドリアは細胞内の発電所。効率よくエネルギーを作り出す。
ミトコンドリアって?
ミトコンドリアは大きさが直径0.5μmほど(最大級のものは10μm)のもので、細胞1個の中に何と平均300〜400個存在しています。
ミトコンドリアはイラストだとこんな感じになります。
人間では、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝が活発な細胞の中には数千個ものミトコンドリアが存在します。
また、ミトコンドリアは人間の全体重の10%程度を占めます。
細胞の中にミトコンドリアが無いのは1種類のみ、「赤血球」のみが細胞内にミトコンドリアを持っていません。
他の「全細胞」の中にミトコンドリアがあります。
TCA回路と電子伝達系
さて、この細胞内発電所のミトコンドリアの中で行われる代謝経路、「TCA回路」と「電子伝達系」の2つに話を戻します。
この2つの代謝経路は、どちらも鉄を必要とします。
「TCA回路」では、「鉄-硫黄クラスタータンパク質(コハク酸脱水素酵素など)」という各種の酵素が働きますが、名前の通り、この酵素には鉄が必要です。
「電子伝達系」にも、電子を輸送する「ヘム酵素(シトクロムP450オキシダーゼなど)」に鉄が必要です。
鉄不足があると、「TCA回路」と「電子伝達系」の両方とも、きちんと働きません。
つまり、3大栄養素からエネルギーを効率よく作る事が出来なくなります。
という事で、鉄が不足していると、(赤血球をのぞく)「全身の細胞」の内でエネルギーが効率よく作れません。
鉄不足は全身のエネルギー不足を引き起こす。
では、鉄不足の時のエネルギー源は?
鉄不足になると、3大栄養素の3つともから、効率よくエネルギーが作れません。
しかし、そんな時でも唯一、エネルギーを取り出す方法があります。
それが「解糖系」です。
鉄不足でも動かせる代謝経路は「解糖系」だけ。
糖質だけ「解糖系」というもう1つの代謝経路があります。
糖質 → 解糖系 → エネルギー(少量)
これは細胞の中でも「ミトコンドリア」ではない「細胞質」という部分で行われる代謝経路です。
解糖系のデメリット
「解糖系」は鉄不足でも動かせる唯一のエネルギーを作る事のできる代謝経路です。
しかし、デメリットが大きく3つ、存在します。
<解糖系のデメリット>
・エネルギー作成後に「乳酸」が残り、身体が酸性になる
・熱を作れないので体温が下がる
・効率がとても低い
解糖系が残す「乳酸」という厄介な置き土産
「解糖系」が働く事で「乳酸」というものが残ります。
よく、筋肉を使った後に残るあの「乳酸」です。
残った「乳酸」は、肝臓でエネルギー(ATP)を使って、ブドウ糖に戻す必要があります。(この代謝経路は、コリ回路といいます)
解糖系では、厄介な置き土産すらも処理するのにエネルギーを使うハメになります。
借金して現金を前借りしているようなものです。
後々、ツケを払う必要があります。
ツケを払ってでも「乳酸」を処理しないと、身体が酸性になり、他の代謝すらもきちんと働かなくなります。
解糖系が働くとできる「乳酸」は、代謝の「負債」。後々、エネルギーを使って処理する(ブドウ糖に戻す)事になる。
身体が酸性になり過ぎるのを「アシドーシス」といいます。
アシドーシスは進行すると、ダルさが出現し、食事が取れなくなり、嘔気・嘔気が出て、痩せて、さらに進行すると倒れて、命も失います。
「解糖系」は熱をあまり作り出さない
解糖系の3つのデメリットのうち、1つ「乳酸による酸性化」を説明しました。
<解糖系のデメリット>
・エネルギー作成後に「乳酸」が残り、身体が酸性になる
・熱を作れないので体温が下がる
・効率がとても低い
効率の低い「解糖系」では、代謝中に熱をあまり作り出しません。
体温が下がると、やはり全身の他の代謝も活発ではなくなってしまいます。
例えば、免疫細胞の活性も下がるので、免疫力が低下し、感染症にかかったり、毎日体内でできる癌細胞を処理しづらくなってしまいます。
癌による「悪液質」という状態が、まさにこの「解糖系」によって引き起こされる状態です。
癌細胞では細胞内発電所のミトコンドリアの機能が停止され、ひたすらに「解糖系」が動きます。
近年の癌細胞の増加は、栄養不足の中、たたひたすらに大量に糖質を処理するために、細胞が適応した結果、とも考えられます。
(現代の日本人は大量の糖質により、ビタミン・ミネラル・タンパク質が欠乏しており、その中で大量に糖質を摂っている)
そして、解糖系が働きまくると、その結果、体温が低下し、身体は酸性になってしまいます。
解糖系はどのくらい効率が低いの?
解糖系の最後のデメリット、「効率の低さ」について。
<解糖系のデメリット>
・エネルギー作成後に「乳酸」が残り、身体が酸性になる
・熱を作れないので体温が下がる
・効率がとても低い
解糖系は糖からエネルギーを作り出せる経路です。
エネルギーは人体では、「ATP」というものの分子の数で表されます。
食べた栄養を「ATP」にすれば、エネルギーとして使える状態になる、という事です。
人体のエネルギーは「ATP」。
ミトコンドリア内で行われる「効率の良い」代謝、つまり「TCA回路」と「電子伝達系」を使った代謝では、こうなります。
ブドウ糖1分子 → ATP 38分子
そして、細胞質で行われる「非効率な」代謝、つまり「解糖系」を使った代謝では、こうなります。
ブドウ糖1分子 → ATP 2分子
実に、19分の1しか、ATPを作り出す事ができません。
イメージとしては、鉄不足では発電所が動かせないので、一般人が何とか自家発電するような感じです。
3種類のエネルギー源のうち1種類しか使えず、その効率は19分の1しかなく、しかも産業廃棄物が残る、という。
まとめるこうなります。
鉄不足があると「糖質」からしかエネルギーが作れず、しかもその効率は「19分の1」しかない。
脳が鉄不足の影響を受けたら?
例えばエネルギーが沢山必要な脳細胞で鉄不足が起きたらどうでしょうか?
エネルギー源が1種類のみになり、効率が19分の1しかなくなったら?
脳細胞のエネルギー不足は、うつや、パニックなどの症状の原因となります。
また常に頭が働かなくなったり、朝が弱くなったり、熟睡できなくなったり、頭痛がしたり、逆に神経過敏になったり、イライラして怒りやすくなったり、などの多彩な症状を引き起こします。
鉄不足による脳細胞のエネルギー不足は、うつやパニック、頭痛などの多くの症状の原因となり得る。
また、この「エネルギー不足」からくる「飢餓感」を解消しようと、「糖質」ばかり、しかも「大量」に欲しくなってしまいます。
これが「鉄不足」による「糖質依存」です。
このように、2つの事が同時に起きます。
鉄不足では脂質やタンパク質からエネルギーを取り出せない。
↓
「糖質ばかり」欲しくなる。
鉄不足では糖質を使った効率の低い代謝しか行えない。
↓
糖質が「大量に」欲しくなる。
そういう人、見たことがありませんか?
鉄不足による糖質依存は日本人に多い
最初に挙げた他の記事で、日本は鉄不足に関してまさに「異常事態」となっている事をご紹介しました。
閉経前の女性は、ほぼすべての人が「鉄不足」です。
男性でも、肥満、糖尿病、癌の人の多くが「鉄不足」です。
スイーツ大好き、間食もやめられない、そういう方は、まさに「鉄不足による糖質依存」かもしれません。
そういう方の、食事の内容は「糖質ばかり」です。
「糖質大好き」の方は、ダルかったり、朝が弱かったり、皮膚や髪の毛のトラブルがあったり(コラーゲンの劣化)、頭痛に悩んでいたり、気分が落ち込んだり、イライラして怒りやすかったり、しがちです。
「鉄不足」の解消は、「鉄の補充」です。
鉄を補充しないかぎり、未来永劫、「鉄不足」は解消しません。
逆に、タンパク質と鉄を補充するだけで、驚くほど体調が良くなる例が報告されています。
「とある内科医」さんがそういう症例を報告しています。
タンパク質と鉄不足があれば、タンパク質と鉄の補充を。
なお、タンパク質の必要量はコチラをご参照ください。
一度も計算した事がない方は、現在のタンパク質摂取量が、全然、全くもって足りないという事が分かります。
以上、鉄不足で糖質依存、でした。