今回はSPTについて、医師向けの説明です。
前置き:今回の記事は医師向け、他注意点
今回の記事はあくまで医師向けです。
どんなふうにするのかな?、と思った医師の方向けの説明です。
患者さんは自分では絶対にこれを読んで調節や薬剤変更などは行わないでください。
ダメ、絶対です。
繰り返します、あくまで医師向けの内容です。
しかも、糖質オフに詳しい、そして自分でも糖質オフをしている、という医師向けの内容です。
糖質オフと併用しなければSPTの意味はありません。
β細胞が死滅し、インスリンに逆戻りです。
なお、私が提唱した治療法ですので、どの教科書にも載っていません。
ただし、ある意味、どの教科書にも載っている内容しか利用していません。
薬もオーソドックスなものです。
また、SPTでインスリンを終了した後には、徐々にインスリン・オフ療法へと移行すべきです。
やはりSPTも膵臓のβ細胞に負担をかけますので、なるべく早めにインスリン・オフ療法へと移行をお勧めします。
もちろん、SPTの開始にあたっては、独自に調べたり、他の医師の論文や主張とも比べるべきです。
また実際の治療は各医師の自己責任において実施して下さい。
と、いつもの前置きをしつつ。
前提の知識、動画含む
読み進める前にSPTの講演を見て下さい。
これを見た前提で書いていきます。
また、関連記事2つもご覧ください。
SPTの開始時のポイント
まず、SPTを使うタイミングですが、
インスリンからの切り替え・離脱を目指す時です。
糖質オフについても同時に指導開始です。
外来で指導する際には蛋白脂質食のA4サイズ説明書を使うととりあえず説明しやすいです。
「本を読んでください」といっても読む患者さんはほとんどいません。
ご高齢の方は文字が見えません。
まずインスリンを合計します。
1日の単位数を単純に足し算します。
朝8単位、昼8単位、夕8単位で超即効型インスリン、
就寝前で8単位の持続型インスリンなら、
合計して、32単位です。
そこから8単位法を使います。
8単位法は単なる目安。
適応には調整が必要。
8単位法はあくまで簡略法です。
まったく正確性はありません。
単なる経験則です。
が、割と上手くいきます。
上手くいくのは個々の患者さんで、
コレは効きそう、効かなさそう、と予想とたてて、
何単位分か自分で微調整して考えるからです。
なぜ「8」単位なのか?
8単位というの自体が適当です。何となくの数値です。
末広がりで縁起が良さそうですよね。
経験則から「8」くらい、という事で決めました。
ですので、元から非常に大雑把なのです。過信は禁物です。
8単位法の具体的内容
8単位法の内容は以下の通り、超シンプルです。
8単位法の内容
・α-GIとグリニドの合剤1錠で、インスリン8単位分
・強いDPP4阻害薬1種類で、インスリン8単位分
・メトホルミン500mg/日スタート、増量込みで、インスリン8単位分
・SGLT2阻害薬1種類で、インスリン8単位分
・ピオグリタゾンも30mgイケるなら、インスリン8単位分
これだけです。
講演の時にはちょっと触れただけのピオグリタゾンも追加しています。
8単位法は、ほんとにものすごく大雑把な換算法です。
でも、全く何もないよりはやりやすいですよね?
そう、8単位法とか名前を付けていますが、考えの取っ掛かりにすぎません。
過信は絶対に禁物です。
8単位法の過信は禁物!
当然、インスリンと併用で既に上記薬剤を飲んでいる場合は、単位数を勘案します。
性別、体型、コンプライアンス、また糖質オフと併用しますので、どれくらい糖質を抑えられそうか、など考える事は色々です。毎回違います。そこは自分の経験と責任で調整します。
さて以下は、個別の解説です。
α-GIとグリニドの合剤
基本はα-GIと、グリニドが合剤となっている商品名「グルベス」です。
これを今まで打っていた食直前の超即効型インスリンの変わりにします。
グルベス1錠で8単位です。
なので、上記の例の場合、グルベス3錠分3、食直前で、超速効型インスリンの変わりになります。
もちろん合剤でなくても良いですが、
グルベスが一番コンプライアンス良好でした。
副作用も少ないです。
他のα-GIでは下痢や腹満のある方でもグルベスは大丈夫という事があります。
何ならボグリボース0.2mg錠で症状のあった方がグルベスなら大丈夫だった、という事もありました。
これで、グルベス1錠8単位ですので、
1日3錠で、インスリン24単位分くらいがなんとなーく切り替えられそうかなー?
と考えます。
いやいや、コンプライアンスが、とかその後に色々考えて微調整します。
ここは勘と経験です。
SPTで使う唯一の低血糖を積極的に起こすのがこのグルベス(のうちのグリニド)です。
糖質オフがガッチリやれた場合は低血糖となり得ますので、その点も注意して処方します。
またグリニドはインスリン分泌促進系の薬剤ですので、糖尿病が改善した場合にまず最初にやめるべき薬です。
上記の様に、低血糖リスクもあります。
始めはグルベスで開始しますが、
グルベスでも弱い場合は、この合剤をバラして増量します。
最大で、
セイブル(75)3T3x、
ファスティック(90)3T3x、
ファスティック(30)3T3x
(つまり、ファスティックは1回120mg)
まで増量します。
強いDPP4阻害薬
DPP4阻害薬もインスリンを出す系の薬剤です。
なので、DPP4阻害薬もグリニドに続いて2番目にやめるべき薬剤です。
DPP4阻害薬には強弱があります。
強いタイプではエクアが最初に発売された薬剤です。
しかし、1日2回で肝障害の副作用があり採血が定期的に義務付けられるほどです。
その分、腎障害でも使えるというメリットはあります。
私が主に処方する(していた)のは、オングリザです。
今ではほとんどの患者さんが低インスリン療法となっているので、ほとんど処方しません。
オングリザも、腎不全であっても減量すれば(2.5mg)使用できます。
さらに1日1回でコンプライアンスが良く、他のDPP4阻害薬とくらべて副作用が非常に少ないです。
強さもエクアと同程度です。
つまり、とても使いやすいし、患者さんからの支持も高い薬剤です。
お値段もDPP4阻害薬の中ではそこそこです。
オングリザも5mgの場合は、インスリン8単位分と換算しちゃう雰囲気です。
あくまで雰囲気です。
実際は8単位より少し弱いかなーという感じですが、まぁ、大雑把換算なので。
そこは微調整して計算します。薬の効きを予想します。
何度も繰り返すと慣れてきます。
ですが、上記の様にDPP4阻害薬はインスリン分泌促進系の薬剤ですので、グリニドに続いて2番目にやめるべき薬剤です。
(追記)
当時はオングリザがメインでしたが
その後は、腎不全でも量の調節が不要で、
さらに倍量投与ができる「テネリア」をよく処方していました。
メトホルミン
これは低インスリン療法に切り替わっても続行可能な薬剤です。
古くからある薬剤で、値段も大変お安い。
内服できればとても良いお薬。
ただし、副作用が多い。
副作用が出ない人にはとても良いですが、やたら副作用が出やすいです。
また、高齢者はさらに副作用が出やすく注意がとても必要です。
詳しくは添付文書など参考にしてください。
PMDA、医療用医薬品の添付文書情報
使う薬剤は、一度はPMDAで添付文書の上から下までずずいっと見るべきです。
今日の治療薬などでいつもは済ませるでしょうが、添付文書がやはり情報量が一番です。
薬物動態も載っていますし、作用機序なども載っていますし、承認時に根拠となった論文も載っています。改めて見直しても、勉強できる事がとても多いです。
一番多い副作用は下痢です。
次に倦怠感、食思不振。
さらに口内がずっと甘い、というのもありました。口内甘味です。
メトホルミン中止でよくなります。
メトホルミンで下痢になったけど、他の薬剤が使えない場合や、糖尿病コントロールが不良で、メトホルミンを続ける必要がある場合は、ポリフルなどが良いかもしれません。
副作用が出ず、内服できれば主力となり得る薬ですが、その副作用にとても気を払うべき薬剤です。
また用量が1日500mgから2250mgと幅が広いので(メトグルコ)、増量すると副作用が出る場合も多いです。その場合は再び減量すれば大丈夫な場合も多いです。
増量するため、「メトグルコ」を処方しています。
(その後、後発品との適応の違いは解消されたので後発品でも2250mgまで増量可能となりました)
処方する場合も、患者さんに副作用が出た場合や、その対処法などについて説明しておくと良いです。
メトホルミンも増量込みで何となくインスリン8単位分かなー的な感じです。
しかし、飲める量がかなりバラつくので、本当にメトホルミンの場合は勘と経験がモノを言います。常に色々な事を予想して、換算単位数を考えます。
メトホルミンの副作用がキツイ方には、メトホルミン250mg錠を2分の1を2日に1回、などで慣らしていく方法もあります。
SGLT2阻害薬
やせる糖尿病薬として業界では有名なSGLT2阻害薬です。
尿に糖を捨てる(糖の再吸収の一部を抑える)ので、その分やせる、という訳です。
尿糖と一緒に水分も出るので(浸透圧利尿)、脱水になります。
クレアチニン値なども上がったりします。
水分摂取がしっかりできない方には処方すべきではありません。
やせるのも当然、副作用です。
やせ型の方には危険です。
逆に利尿剤が減らせたり、血圧が下がって降圧剤が減らせる事もあります。
前医ではサムスカ内服で、ラシックスの注射に通っていた患者さんが、降圧利尿薬なしでルセフィのみになった患者さんもいます。
とにかく新しめの薬剤なので副作用に注意してください。
添付文書は必ず上から下までずずいっとと読み、最新の情報にも目を光らせてください。
そうでなければ、処方はやめましょう。
私が主に処方するのは「ルセフィ」です。
肝障害、腎障害でも副作用が少ないのと、増量できる点が使いやすいです。
6ヶ月で体重増加のリバウンドは、やはりあります。
糖質オフがきちんとできていれば関係ありません。
そういう方には「カナグル」に変更して、再び体重減少した例もあります。
ルセフィは2.5mgから開始して、問題なければ5mgへ増量します。
もちろん、HbA1cが良好なら無理には増量しません。
この増量込みでインスリン8単位分かな〜的な感じです。
これは減量効果も合わせると8単位を後々は越えてくる感じがします。
が、個々の症例で勘案します。
ピオグリタゾン
最初のSPTへの切替時には合剤を出すことも多いです。
メタクトLD、メタクトHDです。
錠数が減らせるので、内服コンプライアンスが高いです。
男性では膀胱癌のリスクが話題になりました。
某国では承認が降りていません。
またこれも副作用が多い薬剤ですので、処方時には注意が必要です。
心不全には禁忌です。
処方前にNT-proBNPなどを検査しておきます。
ピオグリタゾン30mgで8単位くらいかなー的に、ひとまず考えます。
実際は8単位より弱い感じです。
副作用で飲めない方も多いです。
さらには効き目がほとんどない場合も、しばしばあります。
最後に
以上がSPTの概略となります。
基本は個々の薬剤の組み合わせなので、医師自身の勘と経験がモノを言います。
以前は、インスリンから内服への切り替えなんて、
内服へ切り替えられるのは
「1日10単位までで、SU剤含めて切り替え」
しかありませんでした。
SPTでは、90単位以上でも糖質オフとの併用で内服へ切り替えられた症例があります。
もちろん、落ち着いたらできるだけ早めにインスリン・オフ療法へ移行します。
また、最初からインスリン・オフ療法ができれば、そちらで始めます。
以上、SPT 医師向けの内容でした。